認知症と交通安全

認知症市民フォーラム(川越市民会館)での講演内容 :

講演の様子

教習所での高齢者講習の現状

平成21年3月14日

浦和中央自動車教習所
秋本昌治

(1)高齢者講習制度の変遷

 平成9年の道路交通法の一部改正により、更新期間満了日の年齢が75歳以上の者は、免許更新の際、更新期間満了日前の2か月以内に高齢者講習を受けなければならないとされ、平成10年10月から高齢者講習が開始された。

 その後、65歳以上の者による死亡事故が著しく増加し、とりわけ70歳以上74歳までの年齢層の者による死亡事故件数が激増したことから、13年の道路交通法の一部改正により、高齢者講習の受講年齢が70歳以上に引き下げられた。更に、受講期間が更新期間満了日前の6か月以内に延長となり、現在に至っている。

(2)高齢者講習の内容

 高齢者講習は、免許の更新の機会をとらえ、自動車等の運転や基材による検査を通じて、加齢に伴う身体的機能の低下を受講者一人ひとりに自覚させ、さらに、それに応じた安全運転の方法を個別・具体的に指導することにより、高齢運転者による交通事故を抑止することを目的とした講習である。講習では、少人数のグループを編成し(指導員一名に対して受講生三名)、次の内容により3時間で行われている。

ア. 講義
 高齢者に多い交通事故の特徴や加齢に伴って生じる視力などの身体的機能の低下の説明のほか、改正された道路交通法令や安全運転に必要な知識について、ビデオや教本により講義する。
イ. 器材による検査
 運転操作検査器(反応の速度や正確性を測定する器材)や動体視力検査器・夜間視力検査器を使って、反応の速度や正確性、動体視力・夜間視力などを測定し、その結果に基づいて個別に安全運転の指導を行う。
ウ. 自動車等の運転実習
 実際に自動車等を運転してもらい、指導員が助手席に同乗して受講者の運転行動を観察し、その結果に基づいて個別に安全運転の指導を行う。

(3)受講形態

 70歳以上の高齢者が免許更新の際に受講できる講習は、道路交通法101条の4第1項に規定する高齢者講習(法定講習)のほか、チャレンジ講習の確認を受けた者が受講する簡易講習、特定任意高齢者講習(シニア運転者講習)又は認定講習(高齢者講習同等教育)を受講した場合には、高齢者講習を受講したものと同等とみなされる。

(4)海外の高齢運転者対策

ア. 高齢運転者に比較的緩い方針(一生有効)
スウェーデン、ドイツ、オーストラリア・ビクトリア州
イ. イギリス
70歳で運転免許証の効力が一旦停止されるが、医学的な適性に関して自己申告のような報告書を提出すれば更新される。
ウ. 欧米諸国では、一定の年齢に達した高齢者について医学的スクリーニングをすべきか否か大きな論点になっている。
エ. 認知症の程度と運転可否の問題について
認知症の程度と運動可否の問題については明確にするのが難しいというのが大半である。年齢を基準として医学的スクリーニングをすることの実効性に疑問を投げかける研究もある。いちばん有名なのがスウェーデンとフィンランドとの比較である。フィンランドは、定期的に厳しい医学的なスクリーニングをしており、スウェーデンはしてはいないが、事故率はフィンランドのほうが高くなっている。だから医学的検査をしてもあまり実効性はないのではないかと言われている。

(5)高齢者のモビリティの問題

 自主的に運転をやめた高齢者や医学的検査で結果が悪くて運転をやめた高齢者についての研究結果から、危険な運転行動をする高齢者や違反を認める高齢者は、自分から運転をやめない。自分から運転をやめる人は、女性や走行距離が短い人、事故を起こしていない人たちで、自分から健康状態が悪化したと自覚してやめている。

 重要なのは、自分の運転上の弱点を正しくわかってもらうことと、それに対応した行動をとってもらうように仕向けることが大切であると思う。

ア. 75歳以上の高齢者に対する実車指導

高齢者講習において、75歳以上の受講生に対しては、今年度より認知機能検査(仮称)が導入されるが、その検査結果に基づいた効果的な講習を実施するために、実車指導において、運動機能に関する課題と認知機能に関する課題に区分し、認知機能検査の結果に応じて、一層の講習効果が得られる方法により、実車指導が行われる。

運動機能に関する課題(運動機能の低下を認識させるための課題)
  1. 方向変換
  2. 段差乗り上げ・車両感覚走行(S字、クランク等)・パイロンスラローム
  3. 見通しの悪い交差点
認知機能に関する課題
  1. 信号機のある交差点
  2. 一時停止標識のある交差点
  3. 進路変更
  4. カーブ走行

――高齢者はリスク回避に必要な安全確認や一時停止をしない傾向、
自己評価の高さ、運転の荒さに問題を抱える――

イ. 高齢者ドライバーの弱点を考えた安全教育プログラムの研究・開発が必要である。
  1. 有効視野(目の中心で注意を向けながら同時に周りに何が起こっているかをキャッチできる範囲)の狭さをカバーする危険予測力の再活性化を
  2. 教育プログラムは、一過性で実施するよりも、継続的なケアや自己啓発を含めての対策が必要
ウ. 運転をやめる場合のいちばんの問題点は、運転をやめても生きていける交通手段をどのように確保するかである。それが確保されないと、警察が言おうと、スクリーニングしようと、あまり有効ではないのではないだろうか。

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高齢者の運転特性と心身機能の変化

平成21年3月14日

浦和中央自動車教習所
小島政治

T 高齢者の運転特性

(1)高齢運転者の優れた運転特性
  • 安全を守ろうとする強い気持ち
  • 自分をコントロールできる特性
  • 豊富な経験
  • 高い遵法意識
(2)高齢運転者の危険な特性(運転時に特に注意すべき点)
  • 左右の確認をしない傾向があり、75歳以上になるほどその傾向が強くなる。
  • 見通しの悪い交差点で減速しないこと
  • 右折時の一時停止率が低いこと
  • 危険予測能力は、加齢とともに低下する
    (行動からの危険〜前方に見える人のこれからとる行動がもたらす危険)
    (潜在的危険〜現在、目に見えていない通行者や物が存在している可能性がある場所や地点での危険)
  • 自己評価の高さ
(3)危険運転の原因
  • 注意力の配分や集中力が低下している
  • 柔軟かつ瞬間的な判断力が低下している
  • 過去の経験にとらわれ過ぎる傾向にある
  • 疲労時の回復力が低下している

U 高齢者の心身機能の変化

 加齢とともに、視力・聴力・動作の速さや正確さ、脚力などが低下する

1. 動作の速さや正確さの変化

 複雑な作業を同時に行う場合に、認知・判断・操作の速さや正確さが低下します。

(1)反応時間の変化

反応時間は概ね1秒ですが、加齢とともに少しずつ長くなる。〜高齢者では個人差がおおきくなる。

1秒間で車が走る概算距離
<停止距離>

停止距離=空走距離+制動距離

空走距離 危険を感じてブレーキをかけブレーキが効き始めるまでの距離
制動距離 ブレーキが効き始めてから停止するまでの間に車が走る距離
車の速度と停止距離
(2)判断の遅れと正確さの低下
判断の速さと正確さ

高齢者は複数の情報から判断を行う場合に時間がかかったり、誤った判断をしやすい。

(3)注意が一点に集中しやすくなる
  • 高齢者は「注意配分」しての情報選択や反応することが苦手

情報の見落としの反応の遅れ

(4)認知・判断機能の低下

非高齢運転者と比べて高齢運転者は、

  1. 交差点の右折では、対向車までの距離とその速度を認知して、自分が右折可能か否かを判断する際に、速度の速い車両の前を、右折し始め、ニアミスをおこす傾向があること。
  2. 狭い街路で対向車とすれ違う際に、自車の速度は落とすものの、その走行位置を変えないで、相手が避けてくれるのを待つ傾向があること。
  3. 交差点での右左折時に視線を切り替える回数が少なく、進行方向に視線を向ける時間が長くなりがちなこと。
  4. アクセルとブレーキのペダルの踏みかえ回数が多く、一時停止後の信号機の変化に対するペダル操作が平均約0.2秒遅れること。

などが明らかになっています。

2 視覚機能の変化
(1)静止視力と動体視力
イ)静止視力
静止した状態で静止したものを見る時の視力
ロ)動体視力
動きながら物(人)を見たり、動いている物(人)を見たりする場合の視力で加齢とともに急激に低下する。
年齢と静止視力・動体視力
(2)視野
イ)中心視
物の形や色を正確に確認出来る左右それぞれ35度付近までの範囲
ロ)周辺視
色や形を正確に確認できなくなり、ものの存在を大まかにとらえることしか出来なくなる。
両眼で色彩まで確認できる範囲 周辺視機能
全体の事故に占める割合

※画像:東北工業大学・小川和久氏提供

ある交通場面

ある交通場面

有効視野 その1

有効視野 その1

有効視野 その2

有効視野 その2

カギは有効視野の狭まり
有効視野とは、【例】運転中に前の車に注意している時に同時に周りの交通状況に何が起こっているかを捉えることのできる視野の広さのことをいいます。
危険予測能力の再活性化を
危険予測能力とは、危険が発生する前に危険が起こる可能性を察知する力と言います。危険予測能力が高いということは、危険が起こりそうな場所や対象に目が行く事ですから、有効視野の狭さをカバーすることになるのです。

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