どんなに厳しい環境でも勝ち残れる企業とは?
―インターナル・マーケティングにおけるホスピタリティ教育(ダイジェスト版)―
2009年5月11日(月)〜13日(水)
1.サウスウエスト航空
「サウスウエスト航空のポリシーのひとつが"WORK HARD & PLAY HARD(よく働きよく遊べ)"であるということは、スチュワーデスたちの話の中でも何度か出てきた。仕事は厳しいけど、仕事が楽しい。この会社は世界一の会社だということを誇らしげに語るのであるが、機内で働くスチュワーデスの仕事ぶりを観察していて、仕事がいかにハードであるかということは十分に納得がいった。一方、「仕事が楽しい」または「この仕事が大好きこの会社が大好き」という彼女たちのコメントも、彼女たちの表情をみていると、それらが本心からのものであるということも十分理解できるのである」。
サウスウエスト航空は、その人材採用の際にもユニークな判断のモノサシを持っていることでも知られている。伊集院によると、それはサウスウエス卜航空スピリッツ(精神)と言われているもので、その内容は
「ユーモアのセンスがあり、面白い人」
「型にはまらない人(人と異なった何かを持っている人)」
「冗談が得意な人」
「まじめすぎない人」。
簡単にいうと以上がサウスウエスト航空スピリッツを理解する人ということになる。
上述からもわかるように、これからは型にはまらず個性を大いに発揮し仕事もプライベートも全力投球する人材がやはり企業が喉から手が出るほど欲しい人材の要件である。自分らしさ・自分の切り口・オリジナリティを発揮することで個性的で独創的な作品(仕事)を生み出し、そしてそのことが次なる創造へのステップになるという好循環が起こるのである。
本来サービスはサーブする(給仕する)という言葉から派生している。つまりホスピタリティが横の人間関係・パートナーシップを重要視するのに対して、サービスは縦の人間関係・主従関係のもとで、あくまでも"仕事として""義務として"サービスを行うという意味合いが含まれている。
サウスウエスト航空は2001年度の旅客数で世界一を記録する勢いであると報道されたが、アメリカの同時多発テロ以降、多くの航空会社が次々に経営危機に陥っていく中にあって、同社はほとんど影響を受けていない。サウスウエスト航空は約30年前に格安運賃と常識を超えた経営戦略で航空業界に参入したが、全席が自由席で機内食のサービスもないのに、いまや航空会社の中で最も脚光を浴びている。しかも、最高の定時運行率、最少の乗客苦情件数、最小の手荷物紛失率という点で常に業界のトップを走り続けている。
サウスウエスト航空は、客室乗務員が機内で奇想天外なサービスを行う会社としても注目されている。同社は次のことを実践し、常識の枠を超えた発想で、顧客に感動と喜びを与え続けている。
- 突飛な発想で既成のビジョンをぶち壊そう。
- 勇気を奮って顧客を楽しませ、心のこもった対応をしよう。
- 会社の最も大切な財産は、従業員と彼らが生み出す社内文化であることを忘れるな。
人々にサービスやホスピタリティを提供し、仕事を通じて人生を楽しむというのが、同社の「信条」である。サウスウエスト航空は面白いことに重点を置いており、たとえば、従業員の採用にあたっても、ユーモアのセンスが優先される。同社は、いつでも顧客の心に残るサービスを提供したいと願い、顧客を笑わせ、楽しませる心のこもった温かいサービスを心がけている。
「破天荒なサービス」と名づけられたユニークなサービスを顧客に提供するには、まず従業員を尊重し、誠意を持って接しなければならない。「従業員第一主義」で「人間第一主義」でもある。これが同社の基本理念であり、顧客を楽しませるために会社の規則を少々曲げてしまうような従業員でも支援される。これは自主性の尊重でありエンパワーメン卜でもあろう。
サウスウエスト航空の最大の資産は、何といってもホスピタリティ文化とその運命共同体を形成する経営者と従業員の一人ひとりのホスピタリティ・マインドである。ホスピタリアン・リーダー hospitalian leaderと呼ばれ、顧客や従業員を家族のように大切にしている。伊集院は、「サウスウエスト航空の奇跡 社員第一、顧客第二主義」で、従業員満足の重要性を説いている。「社員第一主義」というと、これまでの顧客志向の主張に反するようであるが、従業員満足が結果として顧客満足(CS)につながるのである。
フライヤーは、ローコストオペレーションでも知られているサウスウエスト航空の成功について、「単にコスト構造が競争的だったとか、すでに引退した創業者のハーブ・ケレハーが優秀だったといった理由から、航空業界の羨望の的であったのではない。社員たちを注意深く見守り、育成したからこそ成功した」のであり、「社員の厚生こそ真の利益」となるとの研究成果を紹介している。
サウスウエスト航空は、人と貨物を時間通りに目的地に運びながら、コストを低く抑えることによって運賃を格安に据え置き、航空業界で最高の生産性と安全性を誇っているといわれるが、他社との違いは、職場と地域社会で社訓を実践し、ホスピタリティあふれる従業員自身が楽しみながら、顧客を楽しませ顧客を満足させていることだろう。
2.ザ・リッツ・カールトン・ホテル
ザ・リッツ.カールトン・ホテルは、個人的対応で質の高いサービスを提供することで成功し、戦略的な優位性構築を成し遂げたCS経営の優れた事例とされている。ザ・リッツ・カールトン・ホテルの従業員は、お客の依頼に対してけっして「ノー」という言葉を使わないと言われている。しかも言葉遣いや挨拶、客への対応については、あえて特別な教育・訓練はなされてないというのである。従業員に自由裁量権が与えられていて、常に自分で考え、自分で判断し、自分で行動することが求められている。彼らはお客に対していつも新鮮で、しかも友好的である。これが同ホテルの基本的コンセプトである。このようにザ・リッツ・カールトンでは、お客に対しても従業員に対しても心にくいばかりの気配りがなされ、お客はいつも自然体のくつろぎと安らぎを享受することができる。
ザ・リッツ・カールトンの考え方は、
「顧客に対してクオリティの高い商品とサービスを提供しよう」
「けっして現状に満足することなく、常に成功への道を歩む努力をしよう」
であり、こうした哲学を実践し続けている。その結果、ザ・リッツ・カールトン・ホテルは、優れた功績とクオリティの向上を果たした企業に与えられるマルコム・ボルドリッジ賞(米国国家経営品質賞)を、1992年と99年の2回受賞している。これはサービス業では唯一のことで、いかに顧客満足が高いかがわかるだろう。
ザ・リッツ・カールトン・ホテルでは、従業員教育に3つのポイントが置かれている。1つは「考え方」であり、2つ目が「スキル」、3番目が「知識」である。一般的には、「スキル」と「知識」教育が先行し、「考え方」の部分は後回しになりがちであるが、同社ではこれを意識的に逆転させて、すべての教育を「考え方」の部分からスタートさせている。
その考え方を示すものの一つに「クレド」と呼ばれるものがある。
信条、あるいは約束というような意味であり、表に"We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen"と書かれた4つ折8ページのカードである。その中には、「お客様が言葉にされない願望やニーズを先読みしてお応えする」など接客にあたっての心が記されている。同時にその裏表紙にあたるページには「従業員への約束」のタイトルで、「紳士・淑女こそがもっとも大切な資源です」としたうえで、スタッフの「持てる才能を育成し、最大限に伸ばします」と約束している。同社の従業員採用基準は明確であり、「お客様に対して心のこもった対応ができる資質を持っているかどうか」というのがその基準である。QSP(Quality Selection Process)と呼ばれる行動心理学によるプログラムで、お客様が喜んでくれると自分もうれしいと感じたり、お客様が困っている場合、なんとかしてあげたいと思うかどうかなど、面接者の行動傾向が浮かび上がってくる。
ザ・リッツ・カールトン・ホテルでは、各従業員に予算があてがわれ、臨機応変に顧客サービスに対応できるよう、上司の許可なくこれを利用できる制度がある。これによりサービスの品質を高めることができる。これが顧客の感動的な宿泊体験となり、再度の宿泊につながっている。
ザ・リッツ・カールトン・ホテルのサービスに対する考え方は、「クレド(信条)」「サービスの3ステップ」「20のベーシック」「従業員への約束」にはっきり明文化されている。それは会社のトップマネージメントが最高級のサービスに関する定義づけをしない限り、従業員が最高級のサービスを提供できないと考えたからである。よいサービスを提供することを標傍する企業は、そのサービスの定義を明確にし、それを遵守することが重要である。
例えば、個々の従業員にある程度の範囲で決裁権限付の予算が与えられると接客現場でかなり迅速で臨機応変な対応が可能である。そして、それが従業員の動機づけに繋がる。片平は、この決裁権限付の予算についてリッツ.カールトン・ホテルの事例を紹介して次のように述べている。「リッツ・カールトン・ホテルでは客室係に−人当たり2000ドルの決裁権限が与えられている。リッツのホスピタリティが賞賛の的になるのは、ただ単にそのお金で顧客からのクレームへの迅速対応や得意客への特別サービスができるからではない。お金の使い道としての工夫は無限にある。ここで重要なことは客室係に権限を持ってもらうことによるその波及効果である。つまり、"そのお金をどのように効果的に使ったらお客様に一番喜んでいただけるのだろうか"と日々工夫しながら仕事をしてもらうための仕組みづくりに寄与しているのである。
そして、この工夫を競った先に待っているのは表彰、拍手喝采などの仕事への熱意を高めるための仕掛けになる。そこで確かな手ごたえを感じた従業員には向上心を保ち続けられる人が多く、自分自身に対する要求水準が極めて高い人材集団となっていく。
このリッツ・カールトンホテルの決裁権限について興味深いのは、その予算が単にクレーム処理のためのものではなく、想像性を働かせて顧客に感動を与えるための仕掛けをいつも考えさせる点である。つまり、顧客のニーズを先取りしそれを具現化するためのアイディアを考え、予算でもってそれを現実のものとするのである。
ザ・リッツ・カールトン・ホテルにはリッツ・カールトン・ミスティークと呼ばれる差別化されたサービス内容がある。それは、顧客に驚きと究極の感動を与えるサービスといわれている。例えば、ホテルの玄関に顧客の車が到着するとドアマンは顧客の名前を呼んで出迎えるのである。それは、ドアマンの持っている手帳に500名程度の車番リストが載っており、そのデータベースをもとに名前を呼んで出迎えるのである。そこには顧客には見えない隠された仕掛けが施されているのである。
「ある宿泊客は、時計の位置をいつもサイドテーブルに置き換える癖があったとしよう。その宿泊客が泊まることを知っている客室係はいつもどおりにサイドテーブルに時計を置いておくだろう。タバコやビールの銘柄、客室の室温設定、フロントに届いたファックスを、ドアをノックして渡したほうがよいのか、それともノックせずにドアの下から差し入れたほうがよいのか、そうした細かな面にまでこのホテルの従業員はお客様を一人ひとり特別な存在として対応しようという意欲に溢れている。こうしたかけがえのない顧客の驚きこそがザ・リッツ・カールトン・ホテルならではのミステイーク、すなわち神秘に満ちて他社が真似できないサービスなのである。
これから確実に顧客に選択され支持される21世紀型企業の条件として、まずその企業を支持している顧客を最優先に捉え、そしてその顧客に満足いくパフォーマンスを実現している従業員が次に位置し、その結果として企業の存続・発展があるということである。
「顧客は企業経営の原点であり、"企業は顧客に選ばれる"時代になってきている。したがって、企業経営は、従来の企業を中心とした視点から顧客の視点にたった事業経営へと転換することが求められている」。
これらの基準を確実に実行し、顧客に感動を与えることがこれからの企業の使命である。そして、従業員も顧客に感動を与えるのは勿論のこと、自分自身も仕事に遣り甲斐・生き甲斐を持って取り組むことがますます重要になってくる。
小野は、堀場製作所の堀場雅夫会長の事例を紹介して次のように述べている。
「多くの人は、人生のうち、元気な時期のしかも毎日の生活の一番いい時間を会社で仕事をしているわけです。だから、一人一人が、やっている仕事が楽しい、この仕事をして本当によかった、毎日が『おもしろおかしい』というようにならなければいけません。おもしろおかしく仕事するには、そのような仕事が与えられるのを待つのではなく、自分でそういう仕事をつくっていく勇気と努力も必要です。いやな仕事を無理してやっても絶対能率は上がりません。興味をもって仕事ができれば、面白いから能率も上がるし、結果も出る。周りからも認められるし、またその仕事がもっと好きになるわけです」
仕事に対する現代人の捉え方もますます多様化するものと思われる。そのような状況において、顧客、従業員、企業の三者の理想のあるべき姿は「顧客も従業員も企業も共に発展するWin-Win-Winの関係」であろう。
激動の時代を迎えている昨今、企業の真価が問われている。その傾向は今後ますます強くなり企業そのものの存在意義さえ問い直すことになるであろう。つまり、短期的視野でもって目先の利益のみを追求する企業は評価を受けず、あるいは次第に淘汰されるであろう。それに代わり独自のミッション(社会的使命)を明確にかつ強く表明し長期的視野で活動する企業こそが、顧客や取引先、社会によってより高い評価を受け、更なる発展を成し遂げていくことになるといえる。
企業成長にとって必要な原動力は、経営者自身が備えている経営するための技術(Skill)ではなく経営者自身が自ら成長しようとする意思の力(Will)に負うところが大きいといえる。勿論、経営においてSkillは必要である。しかし、Skillよりも燃えるような「経営者の意思」がより重要なのである。つまり、一言集約すると「Skillよりもwill」ということである。このような企業経営の原動力となる経営(者)の意思を「ミッション(Mission)」という。アーサーによると、ミッション.マネジメントとは「経営者の燃えるような意思を明確にし、それを経営の原動力にする一連の戦略実行体系」である。
最も重要なことは短期的視野での数値目標のみの達成ではなく、長期的視野に立って独自の明確なミッションを持ち続けて顧客からの支持を獲得し、また社会に認められることである。それでもって初めて企業の真の評価になるのである。
- 自社の"個性・強み"が強調されていること、
- 企業の"思い"や"共感"、を表現していること、
- 人間の尊厳、人間性や優しさ・ロマンを享受できること、
- わかりやすく、具体的で役に立ち、未来志向に富んでいること、
- 企業の生き方、生き様がよくわかること、
- 貢献の精神が全社的に貫かれ戦略サービスに活かされていること、
などである。
すなわち、ミッション・ステートメントは「組織の目的についての声明、一般的に組織が成就したいと望んでいること」と定義され、組織の中の誰にでも容易に理解できるよう明確にされたステートメントは、「見えざる神の手」の役割を果たし組織構成員を誘導することになる。たとえば、企業が本当に顧客中心主義の徹底を目指すならば、まず、組織は顧客を中心に据えた明快なミッション・ステートメントを作らなければならない。勿論その前提には「満足した顧客との関係を維持することによってのみ企業は存続が許され、利益を結果として確保できる」という信念なり哲学が経営者になければならない。
- わが社の信条
- 1、仕事に責任の自覚を新たにして清新な気持ちで職務に励みましょう。
1、相互に敬愛し信頼し明るい社内の生活を築きあげましょう。
1、質素を旨として節約を重んじて心身の健康の増進に努めましょう。
1、互いに相戒め安全確保に心がけましょう。
1、社員一人一人が会社を代表して評価されていることを忘れず、お互いに品格を高めましょう。 - 仕事への情熱
- 今日一日感謝の心で最善の教育とサービスを提供し、仕事に責任と誇りを見つけよう。
稲荷屋興業株式会社
浦和中央自動車教習所