2011年1月1日
敵を知り、己を知らば、百戦危ぶまれず!!―孫子の兵法より―
昨年9月東シナ海の尖閣諸島の日本海域で起きた中国船と日本海上保安庁巡視船との衝突事件は、根が深いのです。
歴史的背景としては、孫文の中華民国(1912年)成立以前の清朝の乾隆帝の時代は、中国王朝を中心とする世界秩序が歴史上最大の規模に達し、生活習慣、宗教信仰を異にする周辺地域が清朝皇帝の支配下に組み込まれた。 中国の軍事力強化の経緯、思惑、経済の急速な発展とエネルギー確保の国家戦略、尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海での領有権主張など対外関係は複雑です。共産中国が支配する者の交替があっても支配の原理(正当性)や支配の体制はほとんど変わらないのではないか、その点では曲がりなりにも民主主義を標ぼうする日本とは異質の社会です。
- 中国は多民族国家であり、少数民族との根は深く現在の中国を構成する主要な民族、漢民族との関係は難しい状況です。
- 孫文の辛亥革命(民族主義・民権主義・民生主義)によって成立した中華民国(1912年)成立以前の※清朝の乾隆帝の時代は中国王朝を中心として生活習慣、宗教信仰を異にする周辺地域が清朝皇帝の支配下に組み込まれ間接的な支配が行われる藩部、その周辺の地域に夷狄(イキ)が存在するものとみなしていた(華夷(カイ)思想―NHKテレビ 浅田次郎原作 蒼穹の昴)。これらに隣接する地域は朝貢(チョウコウ)国のベルトを形成した。朝鮮、琉球、ベトナム。タイ、ビルマ、ネパール、中央アジアのイスラム諸国等にそれぞれの支配者が「国王」と称して天を支える清朝(天朝)の皇帝と主従関係を結んで朝貢体制が成立している。日本は朝貢の国にはならなかった。
※17世紀前半の中国で清朝が成立した過程は数十万から百万程度の勢力とされる東北部の異民族、女真族(満州族)が数億人の漢 族を支配して初代皇帝ヌルハチは並みなずれた統率力で女真族を隆盛に導いていくが、漢民族に同化させられた。
今回、会場本庁巡視船「よなくに」に体当たりを2回した船は、トロール漁船ではなく、中国の作為的行動であったようです。
尖閣諸島周辺には毎日270隻の中国漁船が操業、このうち日本海域に侵入して操業している中国漁船は1日70隻です。
―「中華帝国の再現を夢見ているのか」―
中国は戦略的には、尖閣諸島を軍事制圧する意図を持っております。ですから、中国は日本が米国から離れることが戦略です。この問題は、愛国心だけの精神論だけで考えると間違います。大事なのは、中国がどのようにして軍事力を拡大し、何のためにそうしているのか、その最終的な意図・目的は何かを見抜くことです。中国はGDPでは日本を抜き世界2位、さらに日本からの輸出は、中国が米国を抜いて1位に踊り出しました。今や、中国なくしては、日本の経済は成り立ちません。しかし、中国はもはや日本から資本も技術も手に入れました。(ODAのみでも年間1200億円)。中国経済が加熱しており、それを支えるには、エネルギーの確保が焦眉となります。
中国は未だ孫文の上げた三民主義の国ではなく自由、平等、基本的な人権も認められない共産党一党支配の独裁国家であることを私達は改めて認識すべきです。そして、現在の中国外交はアヘン戦争以来の屈辱的経験の鑑とし列強の侵略手法をベトナムやフィリピンとの領土問題や、領海侵犯に再現しているかのように見える。未だ中国は国際協調になじめない未完の国なのだろうか。従って日本は主権のための防衛力の強化を当然進め、国家主権の意識を高めなければならない事を黒船の来航以来尖閣諸島事件で思い知らされたが、中国は歴史的にも面子(めんつ)を重んじる国民である点も考慮に入れ、経済的に互恵の関係をどう確立するのか、民主主義国家との絆を強めて模索する時が来たと思います。
銃口から生まれた(毛沢東)中国共産党のこの権力は国際戦略にも優れておりますが、百家争鳴(ヒャッカソウメイ)(百花斉放(ヒャッカセイホウ))の開かれた社会ではなく、中国の民主活動家 劉暁波(リュウギョウハ)氏へのノーベル平和賞受賞への出席も認めない民主改革の進んでいない国です。次の指導者習近平体制でも本質的は変わらないのではないでしょうか。一方、私は今の日本の成熟しない選挙も含めた民主主義の弱点にいら立ちを憶える昨今でもあります。
民主政の危機
2011年4月には、統一地方選挙が行なわれます。民主制は地方自治を重視いたします。民主主義の前提である自律的人間が自分の村・町・県のために秩序と調和のある公共生活を創る事が、やがて国家・公共の生活を形成し、公共心を以って自分の国家を形成出来るのであり、世界国家として人類の公共利益と平和を創るからです。
しかし、今の政権のように官僚主義の弊害のみを指摘して、テクノクラート(官僚集団)を蔑視し、政治主導の名のもとに民主主義の公式論を行政そのものの中に導入したら、行政の公平・中立性は維持できず官僚のモチベーションは低下する一方です。
歴史的に見ると議会制民主主義の国で政権の外側の勢力が政権政党と連立を組むこと無しに議会の多数派となり、政権を獲った例はほとんど存在しません。
外交、安保、経済、財政再建と混乱の極みです。税制でも消費税で国民の負担を分かち合うコンセンサスが得られつつあったのに中産階級所得層狙い撃ちは筋が違うと思います。
戦略(strategy)なき戦術(tactics)のみの戦いは必ず失敗いたします。
あの戦争でもガダルカナルへの海軍の戦略ミスのツケを戦術に回し、それを戦闘に回す作戦指導は失敗したのです。戦後の日本の平和と繁栄を築いた「カルタゴの平和」は終わりに近づいているようです。
先例なき時代に突入
「カルタゴの平和」も終わり、パックス・ロマーナ(ローマの平和)も長く続きましたが、その後、東西ローマに分裂し、西ローマ帝国はゲルマン民族により亡ぼされました。戦後続いたパックスアメリカーナ(アメリカによる平和)も中東問題に足を取られ退潮しつつあります。その間に共産党独裁の中国の抬頭は著しく周辺の小国に多大なプレッシャーを与えております。
国内に目をむけると世界を見てもこれだけの課題を一度に抱えた国はありません。
- 人口減少と少子高齢化の同時進行。移民受け入れ問題。
- 年金と社会保障制度の破綻の現実。
- 10年を超える長期デフレ。
- 20年後にはGDPが中国の4分の1、国・地方債務残高 年内にGDPの2倍に。
長引くデフレ、人口減少、政府債務の累増、資源の奪い合いによる資源高……課題が一挙に押し寄せながら「過去の蓄積と経験」にすがりつく気分が強いように見えます。このままでは後の世代へのツケ回しで国家が溶解しかねません。13〜14世紀の地中海世界に君臨したベネチアは内なる変化に対応出来ず、都市国家としての文明は衰退してしまいました。政府・与党には、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加を新たな経済発展につなげる構想力があるのか。今の日本は学ぶべき教訓でしょう。
参考文献: | 「中国の軍事力」(2010年9月26日付レポート) 国際ジャーナリスト・中東調査会会員 牛久保順一 「中華帝国の危機」(中公文庫) 並木頼寿/井上裕正 著 |
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